診察室で「自家中毒ですね」「ケトン血性嘔吐症です」と医師から別々の表現で説明され、混乱する親御さんは後を絶ちません。結論から言えば、ケトン血性嘔吐症と自家中毒は基本的に同じ状態を指しています。
小児内分泌や小児救急の臨床現場(徳田こどもクリニックなどの臨床解説)でも示されている通り、自家中毒という呼称は「自身の体内で作られた物質(ケトン体)によって自家中毒を起こす」という旧来の概念から生まれた通称であり、正式な病態名としては「ケトン血性嘔吐症」あるいは「アセトン血性嘔吐症」と呼ばれます。さらに、同様の発作が周期的に繰り返され、片頭痛や自律神経異常を背景に伴う慢性的な病態は、国際的な診断基準において小児の周期性嘔吐症(CVS: Cyclic Vomiting Syndrome)として体系化が進んでいます。
では、子どもの体内では一体何が起きているのでしょうか。成人の肝臓には十分なグリコーゲン(糖分の貯蔵庫)が蓄えられていますが、2〜10歳(特に6歳以下)の小児はグリコーゲンの貯蔵能が極めて未熟です。何らかのきっかけで体内のブドウ糖を激しく消費したり、食事を摂れずに空腹が続いたりすると、身体はエネルギー不足の危機に陥ります。
糖分が底をついた身体は、生命を維持するために緊急手段として皮下脂肪や筋肉を急速に分解し、エネルギーを生み出そうとします。この脂肪分解の代謝過程で肝臓から副産物として大量に放出されるのが、アセト酢酸やβ-ヒドロキシ酪酸、アセトンといったケトン体です。
血液中に溢れかえった酸性のケトン体は、血液のpHバランスを酸性に傾かせ(代謝性アシドーシス)、脳の延髄にある化学受容器引き金帯(CTZ:嘔吐中枢)を強力に刺激します。その結果、胃に何も入っていなくても脳から「吐け」という指令が過剰に下り続け、激しい嘔吐のループから抜け出せなくなってしまうのです。小児科で行われるケトン体 尿検査で「3+」や「4+」といった顕著な強陽性反応が出るのは、溢れ出たケトン体が尿中へ排出されている決定的な証拠です。