累がなぜここまで異常なまでに「本物の家族の絆」に執着したのか。その答えは、彼が人間だった頃の痛切な記憶に刻まれていました。
人間時代の累は、生まれつき体が極端に弱く、自力で走ることも歩くことすら困難な少年でした。部屋から一歩も出られず、窓の外で元気に遊ぶ同世代の子供たちをただ羨望の眼差しで見つめるだけの日々。両親はそんな累を深く愛し、献身的に看病を続けていましたが、累の心は次第に自らの無力さに苛まれていきました。
そんな累の絶望の前に現れたのが鬼舞辻無惨でした。無惨は「可哀想に、私が救ってあげよう」と甘言を弄し、自らの血を与えて累を鬼へと変貌させます。鬼となった累は強靭な肉体を手に入れ、夜の庭を自由に駆け回れる喜びに打ち震えました。
しかし、鬼として生きるためには人間の肉と血を喰らわなければなりません。累が屋敷の中で人を喰らっている凄惨な光景を目撃した両親は、深い絶望と苦悩に叩き落とされました。そしてある夜、父親は包丁を手に、涙を流しながら眠る累を殺害しようとし、母親も泣きながらそれを受け入れていたのです。
「なぜ親が自分を殺そうとするのか」――激しい裏切りと恐怖に駆られた累は、反射的に両親を自らの手で惨殺してしまいます。息絶える間際、母親が遺した言葉は「丈夫な体に産んであげられなくてごめんね」という愛に満ちた謝罪でした。そして父親もまた、累を殺した後に自らも命を絶ち、我が子の罪を共に背負って死ぬ覚悟を決めていたことに、累は後になって気づかされます。
無惨から「お前を殺そうとした奴らは偽物の親だ」と唆されたことで、累は自分の罪から目を背け、「親が本物ではなかったからだ」と思い込むことで自我を保ちました。この逃避こそが、那田蜘蛛山で永遠に手に入らない「本物の家族ごっこ」を繰り返す悲劇の根源となったのです。