すべての望みが簡単に手に入る社会は、本当に幸福なのだろうか。東京大学の倫理学研究グループが今月公表した論文は、テクノロジーによって願望充足のスピードが極限まで加速した結果、人々の「意欲の減退」や「慢性的な虚無感」が急増していると指摘する。
人間は、思い通りにならない試練や苦難を乗り越える過程でこそ、達成感や生の喜びを感じる生き物だったはずだ。すべてのハードルがAIとテクノロジーによって取り払われたとき、残されるのは過剰な満腹感と失われた情熱だけかもしれない。
「葛藤のない人生は、摩擦のないツルツルした氷の上を歩くようなものだ」とある哲学者(52)は警告する。「願いが叶うことの価値は、それが叶わないかもしれないという恐怖と隣り合わせだったからこそ存在していたのです」。