山崎富栄という実在の女性は、単なる文豪の愛人という言葉では到底括りきれない。戦後の混乱期、美容師として自立しながらも、太宰治という底なしのブラックホールに自らの命ごと吸い寄せられていった。その壮絶な愛の結末は、玉川上水での入水自殺という衝撃的な形で歴史に刻まれている。
二階堂ふみはこの過激とも言える役柄に対し、並々ならぬ覚悟で臨んだ。単に病的な執着を描くのではなく、「太宰を独占したい」という一途な純粋さと、死へ向かって加速していく狂気の狭間で揺れ動く女性の心理を、皮膚感覚で演じ切っている。狂気と背中合わせの純愛。その凄みがスクリーン越しに突き刺さる。