物語は、過酷な受験勉強により心身のバランスを崩した浪人生の主人公・小山田修二が、療養のために母・和美と妹・美咲を連れて田舎の祖父母宅へ身を寄せるところから幕を開けます。豊かな自然と温かな親族に囲まれ、傷ついた心を癒やすはずだった修二を待ち受けていたのは、到底受け入れがたい異様な光景でした。
広大な旧家の居間に、見知らぬ異様な風貌の男・鰐淵(わにぶち)がまるで家長のように居座っていたのです。家族に問い詰めても、祖父母や母は「親切にしてくれている客人だ」「昔からの知り合いだ」と虚ろな笑顔で答え、男の存在に一切の疑問を抱きません。誰一人として男を追い出そうとしない異常な空間で、唯一正気を保つ修二の孤独な戦いが始まります。
伝承に登場する妖怪「ぬらりひょん」は、夕暮れ時に他人の家へ勝手に上がり込み、家人のような顔をして茶を飲む存在と語り継がれてきました。本作はその古典的怪異の骨組みを、現代の心理的支配(マインドコントロール)と寄生型サイコサスペンスへと見事に再構築しています。