きものの文様には、長い歴史の中で培われてきた厳格な序列が存在します。黒留袖に描かれる柄はどれも華やかですが、そのルーツを辿ると「公家や宮廷文化に由来するもの」「天平美術の宝物から採られたもの」「民間信仰や祝意から生まれたもの」に大別され、この出自の違いこそが黒留袖における柄の格付けを決定づけています。
格式の頂点に君臨するのが、有職文様(ゆうそくもんよう)です。平安時代以降、貴族階級の装束や調度品に用いられてきた伝統意匠で、立涌(たてわく)、臥蝶(ふせちょう)、菱文(ひしもん)、丸紋などが代表格にあたります。宮中の儀礼で用いられてきた絶対的な血統を持つため、無駄な装飾を排した高貴な気品を漂わせます。
これと並んで極めて高い格式を誇るのが、奈良・東大寺の宝物に由来する正倉院文様(しょうそういんもんよう)です。シルクロードを経て伝わった唐花文(からはなもん)、宝相華(ほうそうげ)、葡萄唐草文、瑞鳥文などがこれにあたります。異国情緒を漂わせながらも、1200年以上の歴史に裏打ちされた普遍的な美しさと重厚感を持ち、格の高さにおいて右に出るものはありません。
一般に広く親しまれているのが吉祥文様(きっしょうもんよう)です。良い兆しやめでたい出来事を祝う意図が込められており、以下のような代表的なモチーフが知られています。
- 鳳凰・鶴:古代中国の伝説に由来する鳳凰は平和と繁栄を、鶴は「鶴は千年」の言葉通り長寿と夫婦円満を象徴し、鳥類モチーフの最高峰として扱われます。
- 松竹梅:寒さに耐え緑を保つ松、真っ直ぐ伸びる竹、百花に先駆けて咲く梅は、生命力と清廉さを象徴する婚礼の定番です。
- 宝尽くし:打出の小槌、如意宝珠、隠れ蓑、金嚢など、福徳を呼ぶ宝物を散りばめた富貴繁栄の文様です。
格の高さという観点では、幾何学的・抽象的で古典の格式を宿す「有職文様」「正倉院文様」が最上位に位置付けられ、具象的な美しさを全面に出した「吉祥文様」や、四季折々の草花を描いた絵画的な意匠がそれに続く構造となっています。