ムササビとモモンガを語る上で欠かせないのが、木々の間を滑るように移動する「滑空(グライディング)」のメカニズムです。羽ばたいて飛ぶ鳥類やコウモリとは異なり、両者は高い樹上から飛び降り、パラシュートやウイングスーツのように揚力を得て長距離を移動します。
この飛翔を可能にしているのが、手足の間に張られた伸縮性のある皮膚の膜(皮膜)です。解剖学的な構造を詳しく観察すると、両者の間には決定的な違いが存在します。
ムササビの皮膜は、前脚と後脚の間だけでなく、首から前脚、そして後脚と太い尻尾の間(尾膜)まで全身を包み込むように連結しています。さらに手首の部分には「針状軟骨(スパー)」と呼ばれる頑丈な軟骨突起があり、飛行時にこれを外側へピンと突き出すことで、皮膜の表面積を限界まで拡張します。この広大な翼面によって高い揚力を生み出し、高低差のある山林では100m〜120m以上もの大滑空を成功させます。
一方のモモンガは、前脚と後脚の間に皮膜が集中しており、後脚と尾の間に膜はありません。その代わり、断面が扁平(平ら)になった形状の尾が優れた舵(ラダー)の役割を果たします。風を受けて直線的に大滑空するムササビに対し、モモンガは枝が生い茂る鬱蒼とした樹冠の間を、鋭角にターンしながら縫うように滑空する抜群の小回り性能を誇ります。
夜の森で響く鳴き声の違いも観察者の重要な手がかりです。ムササビは縄張りを主張したり仲間と交信したりする際、森の奥まで響く太く低い「グルルルル」「ギュイッ」「ギャー」という独特の濁った声を発します。対するモモンガは、小鳥のさえずりや昆虫の羽音にも似た「チッチッチッ」「ピッピッ」という高周波の可憐な声で鳴き交わします。