スーパーの鮮魚コーナーに立ち寄った際、「ブリの刺身」の隣に「ハマチの刺身」が並んでおり、別の魚種なのかと疑問を抱いた経験はないでしょうか。ここには、水産業界の近代史における重要な転換点があります。
養殖技術の発展と「ハマチ」の全国ブランド化
結論から言うと、現代の流通市場において「ハマチ」と表記されているものの多くは「養殖されたブリ」です。
昭和初期(1928年)、香川県引田安戸池において、野網保吉氏によって世界で初めてブリ(当時は幼魚のハマチサイズ)の海面養殖が成功しました。戦後、高度経済成長期にかけて香川や愛媛、鹿児島、高知などで養殖事業が急速に拡大します。
当時、養殖業者が出荷していたサイズが、関西でいう「ハマチ(40〜50cm前後、1.5〜2kg級)」の大きさでした。西日本の養殖業者がこの規格サイズを「養殖ハマチ」として東京をはじめとする東日本の消費地へ大量に出荷した結果、「ハマチ=脂の乗った養殖魚」という認識が全国的なデファクトスタンダードとして定着したのです。
天然魚と養殖魚の肉質・脂質の決定的な違い
現在ではJAS法や水産庁の食品表示基準により、天然魚と養殖魚の明確な表示が義務付けられています。天然ブリと養殖ハマチ(ブリ)には、それぞれ明確な特徴があります。
- 天然ブリ(特に冬の寒ブリ):冷たい荒波を泳ぎ回るため筋肉が引き締まり、赤身と脂のグラデーションが美しい。脂は上質で後味がすっきりしており、特有の深みある香りと旨味を持つ。
- 養殖ハマチ/養殖ブリ:徹底した給餌管理(EP飼料など)により、年間を通じて脂質含有量が20%前後に安定。全身に均一にサシ(脂)が入り、トロのようにとろける濃厚な口当たりが特徴。
かつての養殖魚に見られた「油臭さ」や「身の柔らかさ」は、近年の飼料改良(オリーブや柑橘類の果皮を混ぜたフルーツ魚など)や活締め・神経締め技術の進歩によって劇的に改善されており、天然物とは異なる一つの完成された食材として高い評価を得ています。