『大都会』が後世のボーカリストたちにとって「歌唱不可能な難関曲」として君臨し続ける最大の理由は、その常軌を逸した音域の広さにあります。メインボーカルを務めた田中昌之のハイトーンボイスは、ファルセット(裏声)に頼らず、強靭な呼気圧と声帯コントロールによって地声の響きを保ったまま超高音域へ到達するミックスボイスの極致でした。
楽曲中における最高音は「hiC(高いド)」、さらにライブ演奏やアドリブのフェイク部分では「hihiA(ラ)」という、通常の男性ポピュラー歌手の限界を遥かに超越した領域に達していました。これに対し、もう一人のフロントマンであるムッシュ吉崎の野性味あふれる低音バリトンが土台を支えることで、唯一無二の音響的コントラストを生み出していたのです。
音楽理論の観点から見ても、3オクターブに迫る音域差を1曲の中で成立させたツインボーカルのアンサンブルは、昭和歌謡とハードロックの構造的融合における最高到達点の一つと評価されています。