医学部現役合格を果たした頭脳の持ち主だけに、最新の医学論文や治療ガイドラインの読解スピードは突出している。だが、研修医としてスタートを切った当初、彼女を最も悩ませたのはベッドサイドでの対話だった。
病気に対する恐怖で心を閉ざす患者や、厳しい告知に動揺する家族。論理的な説明だけでは救えない感情の機微に、最初は戸惑いを隠せなかった。言葉を選び、あえて沈黙を共有し、相手の目線に合わせて腰を落とす。知識を披露する場ではなく、相手の痛みを聴き取る場としての診察室で、彼女は一人の医師として着実に脱皮を遂げている。