金正日の家族関係は複雑を極め、公認・非公認を含めて複数の妻と子女が存在します。金正日家系図まとめを紐解くと、初期の正妻格であった成恵琳(ソン・ヘリム)との間に生まれたのが長男・金正男(キム・ジョンナム)でした。正男は一時期、有力な後継候補と見なされていましたが、2つの決定的な要因によって脱落の憂き目を見ます。
ひとつは、2001年に偽造旅券を用いて日本の東京ディズニーランドを訪れようとして身柄を拘束された「不法入国事件」です。この一件が世界中で大々的に報じられ、金正日の激怒を買ったとされます。しかしより本質的な理由は、幼少期からのスイス留学で資本主義社会の空気を吸った正男が、「北朝鮮も中国式の改革開放路線を取り入れるべきだ」と主張し、父の先軍政治を公然と批判した思想的乖離にありました。
一方、在日朝鮮人出身の元舞踊手・高容姫(コ・ヨンヒ)の存在が後継争いの潮流を決定づけます。彼女の生んだ次男・金正哲(キム・ジョンチョル)は性格が穏やかすぎて指導者に向かないと判断されたのに対し、三男の金正恩は「負けず嫌いで指導力があり、父の好戦的な気質を最も色濃く受け継いでいる」として溺愛されました。
2008年夏に金正日が脳卒中で倒れ、自らの寿命が長くないことを悟って以降、後継者・金正恩への権力移譲は急速に加速します。2010年9月の党代表者会で若干20代半ばの正恩が「朝鮮人民軍大将」に任命され、実質的な後継体制が内外に誇示されました。後にマレーシアのクアラルンプール国際空港で暗殺されることになる長男・金正男との関係は、この時点で完全に断絶していたのです。