これほど栄養価の高い部位が、なぜ長年にわたって廃棄されてきたのでしょうか。主婦層や料理初心者への取材、SNS上の投稿を分析すると、長ネギの青い部分を捨てる理由には、調理上の物理的要因と、根深い食文化の思い込みが絡み合っていることが分かります。
最大の理由は「繊維の硬さ」と「独特の苦味・青臭さ」です。長ネギの白い部分は土の中で軟らかく育つのに対し、青い部分は風雨に耐えるために細胞壁が厚く発達します。白い部分と同じ感覚でザク切りにして生のまま薬味に使ったり、短時間の加熱で口に運ぶと、口の中に筋が残り、強い渋みを感じてしまいます。この一度の失敗体験が「青いところは食べられない」という誤解を固定化させてきました。
また、日本国内の東西食文化の違いも影響しています。関西以西では「九条ネギ」に代表されるように葉全体を食べる青ネギ文化が定着していますが、関東を中心とする東日本では、千住ネギに代表される「白根の美しさと柔らかさ」を尊ぶ文化が根強くありました。その結果、料理本などでも「青い部分は出汁取りや肉の臭み消しに使った後、取り出して捨てる」という指南が定式化され、家庭内でも無意識に捨てられるサイクルが形成されていったのです。
ネット上では稀に「農薬が溜まりやすいから捨てたほうがいい」という言説も見受けられますが、これは完全な俗説です。国内の農薬残留基準は農林水産省および厚生労働省の厳格な管理下で運用されており、可食部として流通している以上、青い部分だけが危険ということはありません。流水で泥や汚れをしっかり洗い流せば、何ら健康上の懸念なく美味しく食べられます。