日本における盛り塩の歴史は古く、主に神道の「神饌(しんせん:神様へのお供え物)」や「祓い清め」の儀礼、そして古代中国の故事に由来すると伝えられています。神道において、海から採れる塩は生命の根源たる海のエネルギーを宿し、穢れ(けがれ=気枯れ)を祓う強力な浄化力を持つと重宝されてきました。神社の神事や相撲の土俵で塩が撒かれるのも、その場を神聖な結界へと昇華させるための神聖な儀式です。
一方、民間伝承としての盛り塩の風水効果と由来には、中国・西晋時代の初代皇帝である武帝の故事が深く関わっています。後宮に数千人の美女を抱えていた武帝が毎夜どの館を訪れるか選ぶ際、乗っていた羊の引く車が止まった部屋に泊まる習わしがありました。ある聡明な女性が、羊が好む塩水を門口に撒き、あるいは塩を盛っておくことで羊の足を止めさせ、皇帝の寵愛を一身に集めたという逸話です。ここから転じて、日本では「客を招き寄せる」「良縁を結ぶ」「商売繁盛」の縁起物として花柳界や料亭、商店の店先に広まった経緯があります。
現代の空間環境論や心理学的な観点から見ても、盛り塩には「結界を張ることで空間の用途や心理的な境界線(バウンダリー)を明確にする」という整流効果が存在します。自宅の境界である玄関や、不浄が溜まりやすい水回りに清浄な盛り塩を据える行為は、住まい手の無意識に「清らかな空間を保つ」という高い規律をもたらす象徴的なスイッチとして機能しているのです。