「パニックになって無我夢中でホームを走り、線路へ飛び降りて逃走した」——過去にワイドショーを騒がせた痛ましい事件の数々を記憶している方も多いはずです。当時は「拘束されたら有罪率99.9%の刑事裁判にかけられる」「逃げるが勝ち」といった極論がネット上で独り歩きしました。しかし、痴漢冤罪から逃げるリスクと理由を法的な観点から冷静に分析すると、逃亡は自らの首を絞める行為以外の何物でもありません。
第一に、物理的な逃走を図った瞬間、痴漢容疑の真偽とは無関係に別の重大な犯罪が成立します。駅のホームから線路へ降りれば鉄道営業法第37条違反(線路立入)や往来危険罪に問われ、逃げる途中で駅員や乗客を突き飛ばせば暴行罪や傷害罪の現行犯としてその場で取り押さえられます。実際に過去の取材事例でも、「無実を叫びながら逃げたが、途中で制止に入った会社員に怪我をさせてしまい、傷害容疑で逮捕・勾留された」という手記が残されています。電車を止めた場合の損害賠償請求額は数百万から数千万円規模に膨らむリスクすら潜んでいます。
第二に、刑事手続き上の「致命傷」となるのが身柄拘束の長期化です。警察や裁判官が勾留(身柄拘束)を認める要件は、刑事訴訟法上「証拠隠滅の恐れ」または「逃亡の恐れ」がある場合と定められています。現場で毅然と身元を明かしていれば在宅捜査で済む可能性があった事案でも、逃走を図ったという客観的事実があるだけで「逃亡の恐れが極めて高い」と認定され、原則として10日から最大20日間の勾留がほぼ確実に決定してしまいます。会社を長期間無断欠勤することになり、結果として懲戒解雇や社会的信用失墜を招く構図がここにあります。