世界屈指の高所得国であり、環境保護政策でリードするノルウェーが、国際社会の指弾を浴びてまで捕鯨を諦めない決定的な理由はどこにあるのでしょうか。その深層には、単なる経済的損益を超えたノルウェー捕鯨の理由と、国家の自尊心に関わる強烈な歴史的アイデンティティが横たわっています。
第一に挙げられるのが、ノルウェー捕鯨の歴史と伝統食文化への誇りです。ノルウェー北部アルタの岩絵には数千年前の捕鯨の様子が刻まれており、過酷な北極圏沿岸においてクジラは貴重なタンパク源であり生活の命綱でした。さらに19世紀後半、実業家スヴェンド・フォインが火薬入り銛を打ち込む「捕鯨砲」を発明したことで、ノルウェーは世界の近代捕鯨を生み出した発祥の地となった歴史的自負を持っています。
第二の理由は、「資源ナショナリズム(水産資源の主権)」の死守です。ノルウェー政府の論理は明快です。 「タラやニシンといった重要魚種を保護・管理するのと同様に、海の生態系の上位に位置するクジラも適切に間引かなければ、沿岸漁業全体のバランスが崩壊する」 という生態学的管理論を展開しています。自国の海洋政策をブリュッセル(EU)やワシントン(米国)の環境ロビイストに指図されることを断固として拒絶する姿勢は、国民的な合意事項として機能しています。