居酒屋でのビールや宴会での日本酒の感覚で、注ぎ手が近づいてきた瞬間に思わずワイングラスに手を伸ばし、空中に持ち上げて傾けてしまう光景は今なお散見されます。しかし、ワイン注ぎ方マナーにおいて「グラスを持ち上げる行為」は完全なマナー違反です。
なぜグラスを持ち上げてはいけないのか。そのワイングラスを持ち上げない理由には、歴史的なプロトコールだけでなく、極めて合理的な物理的リスクと機能的理由が存在します。
第一に「安全性」の問題です。高品質なワイングラスは、繊細な香りを立たせるために極めて薄いクリスタルガラスで作られており、脚(ステム)も非常に細く設計されています。重心が高く不安定なグラスを空中で動かすと、注ぎ手のボトルの注ぎ口と接触して破損したり、ワインが周囲や衣服に飛び散ったりする危険性が跳ね上がります。
第二に「所作の安定性」です。テーブル上に静止しているからこそ、注ぎ手は正確な放物線を描いて液面をコントロールできます。ワインを注がれる際は、両手を膝の上、もしくはテーブルの上に軽く置き、グラスには一切触れずに静かに待つのが最もエレガントな振る舞いです。どうしても感謝の意を伝えたい場合は、グラスの台座(プレート)の端に軽く人差し指と中指を添える程度にとどめるのがスマートな作法とされています。