お栄の画力について、父・北斎自身が次のような言葉を遺しています。「美人画にかけては、お栄にはとても敵わない。彼女の手による線と艶っぽさは、私には描けないものだ」。百の手を持つと豪語したあの北斎が、自らの実力を下に見立ててまで娘の才能を讃えた事実は極めて重い意味を持ちます。
彼女の真骨頂は、レンブラントやカラヴァッジョを想起させるキアロスクーロ(明暗対比法)の卓越した導入にあります。江戸時代の浮世絵は、輪郭線と均一な色彩で構成される平面的な表現が主流でした。しかしお栄は、闇夜の中に浮かび上がる提灯の柔らかな透過光や、行灯の炎が落とす濃密な影を驚異的なリアリズムでカンバスに定着させました。「光の浮世絵師」と称される彼女の筆致は、浮世絵の枠組みを完全に突破していたのです。