『更級日記』物語への異常な執着の真相!菅原孝標女が見た光と影

『更級日記』物語への異常な執着の真相!菅原孝標女が見た光と影

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寛仁4年(1020年)、父の任期満了に伴い、一家は3ヶ月におよぶ過酷な旅を経てついに京へ帰還します。念願の都に戻った菅原孝標女に、人生最大の転機が訪れました。母の妹(叔母)から、美麗な手箱に入った『源氏物語』全巻が贈られたのです。

これこそが、作中で名高い源氏の五十余巻との邂逅でした。当時の書物はすべて手書きで書写された超高級品であり、全巻を一括で揃えることは貴族層であっても並大抵のことではありません。手箱を開けた瞬間の興奮を、彼女は日記の中で次のように告白しています。

「継ぎ目も見えぬ美しい袋に入った源氏の五十余巻……昼は一日中、夜は目が覚めている間じゅう、灯火を近くに引き寄せて読み耽る。自分が今、后(きさき)の位に就くことすら、これに比べれば何の意味があるだろうか(后の位も何にかはせむ)。」

国家最高の身分である皇后の座よりも、物語に没頭する快楽を上位に置くこの宣言は、更級日記 源氏物語への傾倒がいかに絶対的なものであったかを証明しています。彼女は自室の几帳(仕切り)の中に引きこもり、光源氏や薫の恋絵巻に自己を投影し、自らもいつか物語のヒロインのように高貴な貴公子に見初められるはずだという幻想を強固に築き上げていきました。

田中 結衣
著者

田中 結衣

グルメと旅を愛するフリーライター。全国各地の隠れた魅力を独自の視点から紹介します。