歴代マドンナの中で、観客の心に最も深く刻まれた存在といえば、浅丘ルリ子演じる「リリー」こと松岡リリーと、吉永小百合演じる「歌子」の2大ヒロインです。出演回数ランキングにおいても、この2人の存在感は突出しています。
出演回数における歴代上位は以下の通りです。
- 浅丘ルリ子(計6回):第11作『寅次郎忘れな草』、第15作『寅次郎相合い傘』、第25作『寅次郎ハイビスカスの花』、第48作『寅次郎紅の花』、特別篇、第50作『お帰り 寅さん』
- 後藤久美子(計6回):第42作〜第45作、第48作、第50作(※満男の初恋相手・及川泉役)
- 竹下景子(計3回):第32作『口笛を吹く寅次郎』、第38作『知床慕情』、第41作『寅次郎心の旅路』(※それぞれ全く異なる役柄で登板)
- 吉永小百合(計2回):第9作『柴又慕情』、第13作『寅次郎恋やつれ』
- 松坂慶子(計2回):第27作『浪花の恋の寅次郎』、第46作『寅次郎の縁談』
浅丘ルリ子演じる旅回りの歌手リリーは、寅さんと同じく「根無し草」として生きる宿命を背負った女性でした。第15作『寅次郎相合い傘』における名場面「メロン騒動」や、雨の降る駅前で寅次郎とひとつの傘に入るシークエンスは、日本映画史屈指のラブシーンとして語り継がれています。自著や当時の対談で浅丘ルリ子が「渥美さんとは役を超えて互いの孤独を分かち合っていた」と述懐している通り、2人の間には男女の駆け引きを超えた圧倒的な連帯感がありました。
一方、吉永小百合が演じた歌子は、寅次郎の純真さを極限まで引き出した清楚なヒロインです。第9作『柴又慕情』で福井の古い町並みを背景に出会った2人は、歳の差を越えた温かな交流を築きます。第13作『寅次郎恋やつれ』では夫を亡くした歌子が再登場し、傷心の中で寅次郎の不器用な優しさに救われていく過程が丹念に描かれました。観客アンケートや名画座の歴代人気投票において、リリーと歌子が常に1位・2位を争う理由は、寅さんの「旅の孤独」と「柴又の温もり」を象徴する対極の存在だからに他なりません。