日本における台船の活用は、近代産業の黎明期まで遡ることができる。幕末の志士・坂本龍馬が結成した海援隊や、当時の回船問屋たちが扱った貨物輸送においても、河川や浅瀬での小回りが利く平底の艀(はしけ)は物流の要であった。大型の帆船や蒸気船が港の沖合に停泊し、そこから陸揚げする際の中継役として、平底の船体は日本の貿易と物流を陰で支え続けてきた歴史を持つ。
戦後の高度経済成長期に入ると、この平底船は単なる「荷役の中継役」から「巨大土木工事の主役」へと劇的な進化を遂げる。その歴史的転換点となった象徴的な事例が、メガプロジェクトとして語り継がれる東京湾アクアライン建設プロジェクトだ。海上突風や激しい潮流が交錯する東京湾の只中で、超大型のケーソン(防波堤や橋脚となるコンクリート構造物)を海底へ沈設させるため、巨大なクレーン台船や打設台船が縦横無尽に活躍した。
陸上からのアプローチが不可能な洋上空間において、数百トンもの巨大構造物を安定して保持し、正確な位置に沈降させる作業は、極めて高い剛性と浮力を誇る台船がなければ成立し得なかった。日本のインフラ建設史は、まさに台船技術の進化史と重なり合っている。