信玄餅の深遠な世界を語る上で欠かせないのが、桔梗屋と金精軒という二大潮流の存在だ。観光客の多くは「信玄餅」を一括りの銘柄として捉えがちだが、山梨の地元民にとって両者の違いを語り分けることは一種の嗜みですらある。
1968年に「桔梗信玄餅」を世に放ち、全国的な知名度を確立した桔梗屋は、ガツンと響く黒蜜のコクと万人に愛される餅の弾力で市場を牽引してきた。対する明治35年創業の老舗・金精軒が誇る「信玄餅」は、梨北米をはじめとする地元原料に徹底してこだわり、米本来の素朴な甘みときめ細かなきな粉の風味で通を唸らせる。甘さの引き算か、濃厚さの極みか。互いに異なる美学を掲げて切磋琢磨してきた歴史こそが、山梨の和菓子文化をここまで強固なものに押し上げた。