耳たぶに生じる斜めの溝は、1973年にアメリカの医師サンダース・T・フランク(Sanders T. Frank)博士が学術誌『The New England Journal of Medicine』に報告したことから、医学界で「フランク徴候(Frank's sign)」と名付けられました。当時、フランク博士は狭心症や心筋梗塞を抱える比較的若い患者の多くに、耳垂(耳たぶ)を斜めに横断する溝が存在することに着目しました。
なぜ心臓や脳の血管の異変が、末梢の耳たぶに刻まれるのでしょうか。耳たぶは軟骨が存在せず、皮膚と脂肪組織、そして豊富な微小毛細血管だけで構成されています。この部位の柔軟性を保っているのが「エラスチン」と呼ばれる弾性線維です。全身の動脈硬化初期症状が進むと、血管壁の弾力性が失われ、末梢組織への微小循環障害が引き起こされます。酸素や栄養が十分に行き届かなくなった結果、耳たぶの結合組織やエラスチンが変性・萎縮して皮膚の張りが失われ、物理的な亀裂として深いしわが刻まれるメカニズムが解明されています。
近年の臨床データにおいても、フランク徴候が認められる人は、認められない人と比較して冠動脈疾患リスクが約1.5倍から3倍近く高まるという観察結果が複数報告されています。心臓を取り巻く冠動脈の石灰化や狭窄と、耳の毛細血管網の変性は、同じ「全身の血管老化」というタイムラインの上で同時進行しているのです。