朝ドラファンの間で今なお語り草となっているのが、2つの作品で披露された決定的な名シーンです。彼女が演じた役柄はアプローチこそ異なれど、いずれも「人間の本音と建て前」を鋭く切り取る役割を担っていました。
『マッサン』で炸裂したポーカーフェイスの破壊力
2014年度後期の『マッサン』において江口のりこが演じた野々村由紀子は、太陽のようにエネルギッシュな鴨居欣次郎(堤真一)とのコントラストで絶大な笑いを生み出しました。社長室で繰り広げられるハイテンションなやり取りの中、由紀子だけは眉ひとつ動かさずに冷徹な報告を突きつけます。
当時のインタビューや特番で語られた現場の裏話によると、堤真一のアドリブ連発に対しても一切表情を崩さず、絶妙な「間」で冷や水を浴びせる掛け合いは、事前の綿密な計算ではなく、現場での研ぎ澄まされた集中力から生まれたものでした。この鉄面皮の奥に見え隠れする会社への忠誠心が、視聴者の心を掴んで離しませんでした。
『おちょやん』熊野久恵が見せた女優のプライドと涙
一方、2020年度後期の『おちょやん』で演じた熊野久恵は、打って変わって感情の起伏を舞台仕込みの骨太な芝居で表現しました。新派出身の誇りを胸に、喜劇という未知のジャンルに葛藤する姿は、舞台女優として生きてきた江口自身のバックボーンと重なり、圧倒的な説得力を持ちました。
千代との衝突を経て、次第に座組の屋台骨として仲間を支えるようになる過程で、彼女が見せた「言葉少なに背中で語る温かさ」は、SNSを中心に「久恵姉さんの言葉が胸に刺さる」と大絶賛を浴びました。