いわき平競輪場が「空中バンク」と称される最大の理由は、走路を支える構造そのものにあります。2000年代の大規模全面リニューアルによって完成したメインスタンドと走路は、バンクの内側(インフィールド)を地上から掘り下げ、周囲を空中回廊のようにデッキ化しました。走路の真下に空間が広がり、金網越しではなく開放的なガラス張りのテラスや下部広場から競走を見上げる体験は、ここいわき平でしか味わえません。
しかし、この独創的な立体トラス構造こそが、走る選手にとって極めてシビアな環境を生み出しています。通常の競輪場であれば、外周のスタンド壁面が風除けの役割を果たしますが、いわき平では建造物の隙間や走路下の空間を通って気流が四方八方から吹き抜ける現象が日常的に発生します。特に太平洋(小名浜方面)からの海風と、阿武隈高地から吹き下ろす山風がぶつかり合う春先や夕暮れ時は、コーナーごとに風向きが変わる「見えない乱気流」が選手たちを苦しめます。
過去に特別競輪を制したベテラン選手も、当時の特番インタビューや手記で「いわき平の直線は風の抵抗が突然抜けたり、逆に突風でハンドルを取られそうになる。脚力だけでなくコース取りの直感が最も問われるバンク」と赤裸々に語っています。この独特なエアロダイナミクスが、レース展開の予測難易度を跳ね上げる根源となっています。