人気漫画の実写化において、最も厳しい審査眼を持つのは原作の熱心な読者層です。連載初期から絶大な支持を集めていた『ちはやふる』の綿谷新は、黒髪短髪、黒縁眼鏡、素朴ながら鋭利な美しさを持ち、かるた界の神童として君臨する象徴的なキャラクターでした。
実写化キャスト発表当時、大手ネット掲示板やSNSでは「ロサンゼルス育ちのアクション系美男子に、越前の素朴なかるたバカが演じられるのか」「ビジュアルが華やかすぎて新の持つ静謐な哀愁が消えるのではないか」といった懸念の声が渦巻いていました。綿谷新のモデルとなった実在の人物(福井県あわら市出身の永世名人・前田秀彦氏などかるた界のレジェンドたちの系譜)を知るコアなかるたファンからも、所作の正確性を疑問視する空気が漂っていました。
しかし、『上の句』の劇場公開が始まった瞬間、風向きは180度変わりました。映画館から出てきた観客のレビューには、以下のような驚嘆の声が溢れ返ったのです。
「眼鏡を直す指先の角度、相手を見据える冷徹な視線、そして札を取るコンマ何秒の電光石火の動き……漫画から綿谷新がそのまま抜け出してきたとしか思えなかった」
「福井弁の訥々とした語り口に一切の違和感がなく、アメリカ育ちと聞いて耳を疑った。どれだけの努力を積み重ねたのかがスクリーン越しに伝わって鳥肌が立った」
「千早を見つめるときの切なさと、畳に向き合うときの鬼気迫る闘気。静と動のコントラストが完璧だった」
スクリーンの前で観客が目撃したのは、恵まれた容姿に甘んじる二世タレントの姿ではなく、指先から足の甲に至るまで徹底的に役を身に纏った、一人の真摯な表現者の気迫でした。