『私が見た未来』の歴史を語る上で絶対に外せないのが、2020年から2021年にかけて出版界とネット社会を揺るがした「たつき諒なりすまし事件」です。この前代未聞の偽者騒動こそが、結果として作者本人を表舞台に引き戻し、飛鳥新社からの完全版出版を実現させる決定打となりました。
当時、漫画家を引退して長い年月が経っていた本物のたつき諒氏の不在を突き、ある人物がTwitter(現X)上で「たつき諒」本人を名乗ってアカウントを開設しました。偽者は巧みな語り口でファンを信じ込ませ、大手オカルト雑誌『ムー』の取材に応じるなど、公然と活動を拡大していったのです。
ネット上で流布した「私が見た未来 富士山噴火」という噂の多くは、実はこの偽者が発信したデマ情報に端を発しています。偽者は「2021年8月に富士山が噴火する」などとセンセーショナルな予知を発信し、多くのまとめサイトやインフルエンサーがこれを無批判に拡散しました。
事態の急展開は2021年夏に訪れました。復刊企画を進めていた飛鳥新社の編集部が契約の手続きを進める過程で、相手の身分証明書や筆跡、当時の原稿の保管状況などに重大な矛盾を発見。厳正な調査の結果、接触していた人物が完全な「赤の他人のなりすまし」であることが発覚したのです。
この事態を知った本物のたつき諒氏は、自らの名前で世間を惑わす偽情報がこれ以上広がることを看過できず、飛鳥新社と正式に連携して本物であることを証明。自筆のメッセージを通じてなりすまし被害の経緯を公表し、名誉を回復しました。本人が手記で語った「私の名前を使ってデマを流し、人々を恐怖に陥れる行為は決して許せなかった」という強い憤りは、完全版に込められた誠実なメッセージの基盤となっています。