SNSや動画サイトでは「粉瘤を針で刺して中身を出してみた」「ピンセットで袋を引き抜いた」といった体験談が定期的に拡散されます。しかし、臨床現場の医師らが口を揃えるのは、「自力での処置は百害あって一利なし」という冷厳な事実です。
医療器具ではない裁縫針やカッター、消毒が不十分な指先で患部を傷つけると、表皮の常在菌(黄色ブドウ球菌やアクネ菌など)が皮下組織の深部へ侵入します。その結果、本来は無菌状態に近い粉瘤の内部で爆発的な細菌増殖が起こり、周囲の組織を巻き込んだ急性炎症性粉瘤へと急激に悪化します。
さらに、外側から強い圧力をかけて押し出すと、皮膚の表面ではなく皮下組織の奥深くで袋が破裂(皮下破裂)するケースが頻発します。袋の中に長年蓄積された角質や酸化脂質が周囲の生体組織にぶちまけられると、異物反応による激しいアレルギー様炎症が発生し、患部全体が紫色に腫れ上がって耐え難い拍動性の激痛を引き起こすことになります。
市販薬や民間の民間療法に関する噂も検証が必要です。古くから家庭薬として親しまれるオロナインH軟膏は、有効成分クロルヘキシジングルコン酸塩による殺菌・消毒効果を持ちますが、「皮下の嚢腫壁(袋)を融解・消失させる作用」は一切存在しません。ニキビと同じ感覚で塗布しても、深部にある袋には作用せず、根本治療にはなり得ないのが皮膚科学上の結論です。
また、一部で話題となる「たこ吸盤(市販の毛穴吸引器やサリチル酸配合の吸出し軟膏)」についても同様です。吸引圧で皮膚表面を鬱血させたり、角質溶解成分で表皮をただれさせたりするだけで、真皮深層に癒着した袋を物理的に体外へ吸い出すことは不可能です。かえって周囲の健康な皮膚を傷つけ、色素沈着やケロイド状の瘢痕(はんこん)を残す要因となります。