川合が似顔絵捜査官としての適性を見出された背景には、描画力以上に「被害者の痛みに寄り添う卓越した傾聴力」が存在します。
性犯罪やひったくりなどの被害に遭った目撃者は、強いトラウマから犯人の顔を思い出すこと自体に激しい恐怖を感じています。川合は、取り調べや聴取の場で相手に威圧感を与えず、雑談や共感を交えながら「どんなところが怖かったか」「パッと見でどこに違和感を覚えたか」を少しずつ引き出していきます。
本庁のベテラン専任似顔絵捜査官である木村秀一警部補が川合の才能を絶賛したのも、まさにこの点でした。警察の似顔絵捜査において真に求められるのは、画家のような技術ではなく、証言者の記憶のフタを優しく開け、証言をビジュアルへ変換するインターフェースとしての力です。川合の画風は、被害者が抱く抽象的な恐怖や違和感をそのまま紙の上に定着させる唯一無二の武器となりました。