「タダで座らせておいて最後に高額なものを売りつけるのは、催眠商法ではないのか」という指摘は後を絶ちません。法的な定義と心理誘導のグラデーションにおいて、磁気治療器 催眠商法との違いはどこにあるのでしょうか。
古典的なSF商法(新生活研究会商法)は、閉鎖された空き店舗に客を集め、100円のパンや日用品を「タダ同然で配る」ことで興奮状態を作り出します。熱狂的なハイテンションの中で挙手を競わせ、思考能力を奪った瞬間に数百万円の寝具や羽毛布団を契約させるという、極めて強引な手法です。
これに対し、JA会場で行われる交流磁気治療器の体験会は、はるかに洗練され、時間をかけたアプローチを取ります。販売員は決して最初から売りつけようとはしません。むしろ「効果が実感できるまで絶対に買わないでください」「毎日通ってお友達とお話しするだけで十分ですよ」と優しく語りかけます。
ここに働くのが、社会心理学における「返報性の原理」と「コミットメントと一貫性の法則」です。
会場に通う高齢者にとって、そこは単なる治療の場ではなく、退職や配偶者との死別によって失われた「地域のコミュニティ(居場所)」そのものに変貌します。親切で聞き上手な若いスタッフに健康の悩みを聞いてもらい、同年代の仲間とお茶を飲む。3週間、1カ月と毎日通い続けるうちに、「これだけ親身にお世話になり、毎日タダで機器を使わせてもらって、何も買わずに終わるのは申し訳ない」という強烈な罪悪感と義理の念が醸成されます。
現場を経験したある元利用者は、自著や手記のなかで次のように述懐しています。「誰も強引に買えとは言わなかった。でも、スタッフが目標台数に届かなくて困っている姿を見たとき、年金定期を崩してハンコを押してしまった」。これは暴力的な詐欺ではなく、人間の善意と孤独を巧みに搦め捕る構造的な販売モデルなのです。