多くのリスナーを涙させた「キセキ」ですが、その誕生背景は決して華やかなメジャーシーンの王道ではありませんでした。当時、福島県内の歯科大学(奥羽大学歯学部)に通っていたメンバー4人は、全員が歯科医師国家試験を目指す過密な学生生活の真っ只中に置かれていました。
自著や当時のドキュメンタリー特番でのメンバーの手記・インタビューによると、平日は朝から夕方まで講義や解剖実習に追われ、夜は試験勉強。楽曲制作に充てられる時間は深夜から早朝のわずかな隙間しかありませんでした。プロデューサーであるJIN氏のアパートや限られたスタジオに集まり、機材を並べた床に雑魚寝しながらデモテープを練り上げる日々。メンバーのHIDE氏は当時の心境について、「明日までにレポートを提出しなければ留年するという極限のプレッシャーの中、メンバー全員が睡眠時間を削り、魂を削ってマイクに向かっていた」と述懐しています。
そうした過酷な現実の中で生まれたからこそ、「キセキ」の歌詞には机上の空論ではない、泥臭く真実味に満ちた言霊が宿りました。
楽曲の核となるのは、「奇跡」と「軌跡」というダブルミーニングです。「明日、今日よりも好きになれる」という有名な歌い出しから始まる一連のフレーズは、一見すると直球のラブソングに聴こえます。しかし、曲を深く読み解くと、「巡り会えたこと自体の奇跡」を祝福しつつも、それ以上に「共に泥だらけになって歩んできた日々の軌跡」を誇る構造になっていることが分かります。
不良と呼ばれ、社会から爪弾きにされていたニコガクナインが、グラウンドで流した血と汗と涙の毎日。自分たちの過去を否定せず、仲間と共に歩んだ足跡こそが奇跡を呼ぶというメッセージは、歯科医の夢と音楽の狭間で必死にもがき続けていたGReeeeNメンバー自身の生き様そのものと完全に重なり合っていたのです。