インターネット上の料理コミュニティやSNS、知恵袋の投稿を分析すると、味噌煮込みうどんを本場流で作った家庭で頻繁に巻き起こる論争があります。それが「麺の硬さ問題」です。
大手レシピサイトやSNSの投稿には、「本場の生麺を取り寄せて煮込んでみたが、芯が残っていて生煮えのようになってしまった」「家族から『これ本当に火が通っているの?』と不評だった」という戸惑いの声が数多く見受けられます。実店舗を訪れた観光客からも同様の感想が聞かれることがありますが、これは調理の失敗ではなく、名古屋の味噌煮込みうどんが持つ独自の食文化そのものです。
一般的な讃岐うどんなどは、生地に約10%前後の食塩水を加えて練り上げることで、グルテンの網目構造を強固にし、茹で上がった麺を冷水で締めて「コシ」を生み出します。一方、本場の味噌煮込みうどん専用の生麺は、塩を一切使わずに小麦粉と水だけで打つ「真水打ち(まみずうち)」で作られています。塩分を含まない麺はグルテンが引き締まりにくく、茹で汁の中に小麦の風味が直接溶け出します。これを塩分濃度の高い味噌スープで直接煮込むと、浸透圧の関係で麺の中心部に水分が浸透するスピードが遅くなり、独特の力強い「硬度(アルデンテ)」が形成されるのです。
食文化の文脈を知らない人にとっては「生煮え」と誤認されがちなこの食感ですが、噛みしめるほどに小麦本来の素朴な甘味と、八丁味噌の塩気が口内で融合する計算された設計です。もし家族や同居人が柔らかい麺を好む場合は、無理に本場の硬度を押し付ける必要はありません。生麺を熱湯で1〜2分下茹でしてから土鍋に移すか、あるいは前述の冷凍うどんを活用することで、万人に好まれるモチモチとした食感へと柔軟にチューニングすることが可能です。