「松阪牛ならどれも同じ」「A5ランクなら最高峰」という認識は、実は大きな誤解です。プロの料理人や肉牛関係者の間では、松阪牛は大きく「特産松阪牛」と「一般の松阪牛」に厳格に区別されています。
一般的な松阪牛は、全国から仕入れた黒毛和種の未経産雌牛を三重県の指定地域で肥育したものを指します。これに対し、松阪牛全体のわずか数パーセントしか存在しない「特産松阪牛」は、兵庫県産の但馬牛の素牛(もとうし)を900日以上という長期間にわたり手塩にかけて育て上げた奇跡の牛肉です。サシ(脂肪交雑)の融点は約17度まで下がり、手のひらの体温だけで溶け出すほどの芳醇な不飽和脂肪酸を含んでいます。
悪質な店舗では、交雑種を松阪牛と誤認させたり、安価な経産牛を提供したりするケースが稀に報告されています。本物の松阪牛専門店を見極める最大の基準は、店内に「個体識別番号」が明記されたA5ランク証明書や、松阪肉牛共進会の落札証明が堂々と掲示されているかどうかです。トレーサビリティシステムで牛の生年月日、肥育農家、血統が完全に追跡できる透明性こそが、信頼できる名店の証です。