作者の眉月じゅんは、前作『恋は雨上がりのように』で見せた繊細な心理描写と美しい情緒をベースにしながら、本作で一気にスケールを拡張させた。日常の空気感を丁寧に描き出しながら、じわじわと侵食してくるディストピアSFの異彩。この対比の鮮烈さこそ、彼女の真骨頂と言える。
単なるSFガジェットの提示に終わらず、蒸し暑い香港の匂いや煙草の煙、冷たい金魚の泳ぐ水槽といった五感に訴える描写を通じて、ディストピアの冷徹さを描く。ノスタルジーという甘美な毒に浸かる人間たちの弱さと愛おしさが、眉月じゅんの圧倒的な画力によって紙面に刻み込まれている。