漢字「狸」の本来の音読みは「リ」である。「海狸(かいり=ビーバー)」や「狐狸(こり=キツネとタヌキ、転じて人を化かす者)」といった熟語にその名残がくっきりと刻まれている。中国の古代文献において「狸」は本来、ヤマネコやイタチの仲間など、肉食の小型野生動物全般を指す包括的な文字であった。漢の時代の辞書『説文解字』にも、伏して獲物をねらう小獣として描かれている。
それが日本に伝来した際、既存の和語である「たぬき」にあてはめられた。さらに驚くべきは、古典や方言の奥深くに眠る表外読みの存在だ。「ねこ」や「のねこ」と読む例すら古文書には見られ、まさに難読漢字の代表格とも言える多面性を見せる。音読みの成り立ちと訓読みの乖離は、日本語が歩んできた変遷を解き明かす鍵となっている。