日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)の活動や全日本コーヒー協会が発表するデータからも明らかなように、国内のスペシャルティコーヒー産業は成熟期を迎え、量から質、さらには「体験の独自性」へと市場の力点がシフトしている。かつてのように都市部の駅前や繁華街に店舗を構えることだけが、名店の条件ではなくなった。
現在、カフェ・自家焙煎業界では、あえて地方の山間部や森林のそばに焙煎所を構え、その土地の水と空気で豆を焼き、提供するロースターが増加している。生産地の農園から届く生豆のトレーサビリティを重んじ、焙煎と抽出のプロセスを自然環境と共鳴させる。珈琲をただ飲むだけでなく、その場所を訪れ、空気を吸い、景観とともに記憶に刻むこと。一杯のカップに付随するコンテクストそのものが、現代の消費者が求める真の価値となっている。