側室と正室の間には、越えられない明確な身分上の壁が存在していた。正室は家格の均衡を保つための政治同盟の象徴であり、一族の「表」の顔である。公的な儀礼の場に立つのは常に正室であり、その立場は揺るぎない。これに対し側室は、主たる目的が「家系の継承」という実務的機能に特化していた。
武家社会、とりわけ身分秩序が厳格化された時代において、誰が後継者を産むかは国家の安定に直結する大問題だった。しかし、正室が男児に恵まれないケースは珍しくない。そこで控えるのが側室の役割だ。興味深いことに、側室が産んだ子供であっても、形式上は正室の「子」として扱われる例が多く見られた。個人よりも血統の存続という家のロジックが優先された証左と言える。
制度上の格差は日常の待遇や序列にも容赦なく反映された。着物の柄、召し上がる料理の品数、果ては廊下ですれ違う際のお辞儀の角度に至るまで、細密な規定が存在した。身分制度の徹底は、組織内の秩序を維持するための絶対的なルールだったのである。