入学後数ヶ月の間に、なぜ多くの親が自らキャリアを手放す道を選んでしまうのでしょうか。現場の保護者たちへの聞き取り調査やSNS、コミュニティに寄せられた証言を深掘りすると、表向きの「子どものケアに専念したい」という言葉の裏にある、小1の壁退職の真相が浮かび上がってきます。
引き金の一つは、企業の育児短時間勤務制度の終了です。育児・介護休業法が義務付ける時短勤務は「子が3歳に達するまで」であり、企業努力として小学校就学前(3月31日)まで延長している会社も少なくありません。しかし、小学校入学と同時に「時短勤務の権利」が失われ、フルタイム復帰を強制されるケースが相次ぎます。預け先の終了時刻は保育園時代より早くなっているにもかかわらず、親側の労働時間は長くなるという致命的な逆転現象が発生するのです。
当時の退職者手記には、次のような生々しい告白が綴られています。
「会社からは『もう小学生だからフルタイムに戻れるよね』と当然のように残業を打診され、学校からは平日の14時に『PTA役員会』への出席を求められる。毎日綱渡りで、誰にも弱音を吐けず、子どもが『学校に行きたくない』と泣き出した瞬間に糸が切れました」(大手メーカーを退職した30代女性)
これに拍車をかけるのがPTA役員負担です。デジタル化を進める自治体や学校が増加傾向にあるとはいえ、依然として平日昼間の招集、ベルマークの集計、旗振り当番の強制割り当てなど、昭和の専業主婦家庭をモデルにしたアナログな運営が根強く残っています。「仕事を休んでまで参加しなければならないプレッシャー」と「会社への申し訳なさ」の板挟みになり、心身の限界を迎えた親が小1の壁で共働き限界を感じて退職届に手を伸ばす構図は、個人の能力不足ではなく制度の構造疲労に他なりません。