井手上漠がグラビアの舞台に立った際、日本中の読者が息をのんだのは、そのビジュアルが従来の「男性向けグラビア」の文脈を完全に覆したからでした。グラビアといえば、異性の視線を意識した性的アピールが主眼に置かれがちだった商業誌において、井手上漠が提示したのは「自分自身が最も美しいと思える姿を、自らの意志で肯定する」という極めて純度の高い自己表現でした。
過去の特番インタビューや自著で語られた「自分を男か女かという二者択一の枠にはめられたくない」「ありのままの自分を愛したい」という言葉通り、カメラの前に立つその佇まいには一切の媚びがありません。引き締まったウエストラインとしなやかな美脚スタイル、そして憂いを帯びた透明感あふれる視線は、性別という概念そのものを無力化させる説得力を放っています。
編集関係者の証言によると、撮影現場での本人はポージングや光の当たり方、衣装のドレープに至るまで徹底的なこだわりを見せ、自らを客観的なキャンバスとして捉えていたといいます。世間が受けた衝撃の正体は、単に「かわいい男性がいる」という物珍しさではなく、完成された美意識と確固たるアイデンティティの強さに他なりませんでした。