作中で千尋がハクの背に乗って空を飛ぶクライマックスシーン。幼い頃の記憶を手繰り寄せた千尋の言葉によって、ハクの真の名前が「ニギハヤミコハクヌシ」であることが判明します。この場面でハクの竜の鱗が美しく剥がれ落ち、人間の姿へと戻っていくシークエンスは、映画史に残る名場面の一つです。
公式設定資料および劇中表記における漢字表記は「饒速水琥珀主」と記されます。それぞれの言葉を分解すると、宮崎駿監督が込めた重層的な意味合いが浮かび上がってきます。
- 「饒速水(ニギハヤミ)」:豊かに速く流れる水を意味し、勢いのある清流の生命力を表す。
- 「琥珀(コハク)」:千尋がかつて住んでいた街を流れていた「コハク川」の固有名称。宝石の琥珀のように澄んだ川の記憶。
- 「主(ヌシ)」:その川そのものを司る神、あるいは主(精霊)であることの尊称。
つまりハクの本名は単なる人名ではなく、「豊かで清らかなコハク川を司る水の神」という神格そのものを表しています。人間が川を埋め立ててマンションを建ててしまったことで居場所を失い、魔法を学ぶために湯婆婆のもとへ迷い込んだという背景は、自然環境の喪失というジブリ作品に通底する重要なテーマを如実に物語っています。