ゴッホ耳切り事件といえば「狂気による自傷」が定説ですが、2009年にドイツの美術史学者ハンス・カウフマン氏とリタ・ヴィルデガンス氏が発表した「ゴーギャン犯人説」は世界中に大きな衝撃を与えました。
この説によると、事件当夜、激高して立ち向かってきたゴッホに対し、フェンシングの達人でもあったゴーギャンが自己防衛のためにサーベルを抜き、誤ってゴッホの耳を切り落としたというものです。ゴーギャンは過失傷害による逮捕を恐れて逃亡し、ゴッホもまた敬愛する友人を庇うために「自分で切り落とした」と口裏を合わせ、沈黙の契約を結んだと主張されています。
非常にドラマチックな仮説ですが、現在のアムステルダム・ゴッホ美術館をはじめとする主流の研究者たちは、この新説に極めて懐疑的です。当時の警察調書やレイ医師の記録、事件後に交わされた書簡の内容と矛盾する点が多く、現在でも「精神発作による自己切断」という通説が最も論理的かつ確実な真相として支持されています。