やなせたかし氏は自著やテレビ特番のインタビューで、戦時中に飢えを経験したこと、そして「食べ物があれば人は幸せになれる」という原体験を繰り返し語っている。泥人形というモチーフは、そうした飢餓への祈りと、土や泥という「最も原初的な素材」への愛着が交差した結果生まれたと考えられている。関係者の証言によれば、やなせ氏は粘土細工を好み、初期のアンパンマン構想では「泥でできた顔が、雨に濡れて崩れながらも笑っている」という像を思い描いていたという。
この泥人形の構想は、後に「顔が濡れると力が出なくなる」というアンパンマンの弱点設定へと結実したと指摘する研究者もいる。つまり、泥人形は単なる試作ではなく、アンパンマンというキャラクターの根幹にある「弱さと犠牲」の物語を象徴する存在なのである。