アンダーグラウンドなオタク文化に留まっていたこの表情が、なぜ女子高生たちの日常的な発信コンテンツへと転化したのでしょうか。その最大の契機となったのが、2010年代終盤から2026年代初頭にかけて巻き起こったTikTokのショート動画ブームです。特定のハイテンポなEDMやボーカロイド楽曲に合わせ、リズムに合わせて表情を次々に切り替える「表情チャレンジ」の一環としてアヘ顔ポーズが組み込まれ、瞬く間に爆発的なバイラルを生み出しました。
当時、現場の女子高生たちを対象に行われた若者トレンド調査やSNS上の証言を分析すると、彼女たちの動機は元ネタの性的文脈とは完全に乖離していました。流行を牽引した背景には、主に以下の3つの心理的要因が働いていたことが判明しています。
- 「完璧なキメ顔」へのカウンター(照れ隠しとギャグ化): 常に可愛く見せなければならないSNSの同調圧力の中で、あえて極端な変顔を晒すことで「ノリの良さ」や「親しみやすさ」を演出するセーフティネットとして機能した。
- エフェクトとフィルターによる記号の漂白: 画面加工アプリで目を大きく見せたり、ハートマークを浮かべたりするポップなフィルター越しに撮影されることで、グロテスクさや生々しさが完全に脱色され、「アニメ的な可愛い変顔」に変換された。
- 海外インフルエンサーの模倣と承認欲求: 後述する海外発のミーム動画がおすすめフィードに流れてきたことで、「最先端のイケてるネタ」として無邪気にトレースされた。
女子高生カルチャーを長年追うトレンドアナリストの取材記録によれば、当時の当事者たちは「元ネタがいかがわしい漫画の表現だとは夢にも思わず、単にTikTokでバズっている可愛いポーズの一つとして真似していた」と口を揃えて証言しています。記号の成り立ちを知らない世代によって、文脈が完全に切り離された(脱文脈化された)結果、学校の教室や放課後のプリクラで日常的に行われるポーズへと変貌を遂げたのです。