鎌倉という土地は、中世の武家文化と近代のリゾート文化が重層的に交差する特異なエリアです。明治から昭和初期にかけて、政財界の重鎮や皇族、文士たちがこぞって別荘を構えましたが、その中でも建築的・文化的に突出した存在として語り継がれてきたのが「鎌倉三大洋館」です。旧諸戸邸や旧華頂宮邸が公的な保存や一時公開という形を取るなかで、古我邸は民間資本の手によって極めて洗練された商業・文化空間として持続可能な保存が図られています。
この大邸宅の設計を手がけたのは、旧三菱銀行本店などを設計し、日本人として初めて英国王立建築家協会(RIBA)の会員となった名匠・桜井小太郎です。大正5(1916)年、三菱合資会社の幹部であった荘清次郎の別荘として起工され、関東大震災の激震にも耐え抜いた堅牢な木造トラス構造と、スレート葺きの切妻屋根が織りなす外観は、1世紀以上の時を経ても色褪せることがありません。
荘清次郎の没後は、歴代の各国公使館(第二次世界大戦中のドイツ大使館別公邸など)や、戦後の内閣総理大臣を務めた芦田均の別荘として激動の日本近現代史の舞台となりました。その後、1954年に日本屈指のカーレーサーであり実業家でもあった古我信夫氏が取得。半世紀以上にわたり「古我邸」として一族の私邸として大切に守られてきました。長きにわたり門扉が固く閉ざされ、一般人が足を踏み入れることが叶わなかった歴史的経緯こそが、「幻の洋館」と呼ばれる所以です。
2015年4月、邸宅の文化的価値を未来へ継承するため、広大な敷地と建物を生かしたレストラン&ウエディング施設へとリニューアルオープンを果たしました。現在の営業状況としても、邸内のメインダイニングで供される上質なフレンチレストラン、敷地内の緑陰に広がるオープンエアのカフェ、そして1日1組限定の邸宅ウエディングという3つの軸で精力的に運営されています。