ハーンが遺したテクストは、怪談文学・日本民俗学の境界を軽やかに飛び越え、後世の芸術家たちに決定的なインスピレーションを与え続けてきた。その白眉が、世界的名作として名高い映画『怪談』(小林正樹監督作品)だ。映画で描かれた様式美と幽玄の世界観は、記念館が所蔵するハーンの原初的なヴィジョンと深く共鳴している。
館内の映像コーナーやNHKアーカイブスが提供する貴重な記録映像を辿ると、ハーンの眼差しが柳田國男や折口信夫らによる近代民俗学の胎動といかに共鳴していたかが見えてくる。目に見える近代化の波の中で日本人が置き去りにしようとしていた「見えないものへの畏怖」を、異邦人のハーンは先んじて記録し続けたのだ。