「おやつ」という言葉の響きには、日本の食文化が歩んできた変遷が色濃く刻まれています。その歴史を遡ると、江戸時代の人々の生活サイクルに行き着きます。
江戸時代初期までの日本は、朝と夕の1日2食が基本でした。当時の時刻制度である不定時法において、現在の午後2時から4時頃は「昼八つ(ひるやつ)」と呼ばれていました。早朝から肉体労働に励む農民や職人たちは、昼下がりに体力を維持するため、「八つ時(やつどき)」に簡単な軽食(小昼・こびる)を摂るようになります。この「八つ(やつ)」に丁寧語の「お」を付けた「おやつ」こそが、間食を指す言葉の直接的な語源です。その後、1日3食が定着し、昭和期に大手菓子メーカーによる「3時のおやつは文明堂」といった象徴的な広告展開が広まったことで、「間食=午後3時」という認識が国民的な共通項として定着しました。
興味深いことに、この歴史的習慣は最新の時間栄養学(クロノ・ニュートリション)によって、極めて理にかなった行動であることが立証されています。鍵を握るのは、体内で概日リズム(体内時計)を司るタンパク質「BMAL1(ビーマルワン)」の存在です。
日本大学薬学部などの研究チームによる生化学データによれば、BMAL1は脂肪細胞内に脂肪を蓄積させる酵素の働きを活性化させます。このBMAL1の分泌量は一日の中で周期的に大きく変動し、深夜2時から午前4時頃にピークを迎える一方、午後2時から午後3時頃にかけて最も少なくなることが確認されています。つまり、同じケーキや和菓子を口にする場合でも、深夜に摂取するのと午後3時に摂取するのとでは、体内での脂肪蓄積リスクに歴然とした差が生じるわけです。江戸の人々の生活知恵と生化学のメカニズムは、見事な一致を見せています。