これほど危険な物質でありながら、過酸化ナトリウムが完全に製造禁止とされず、産業界や先端技術分野で重宝されてきたのには、他の物質では代替できない卓越した機能があるためです。それが二酸化炭素吸収剤および酸素発生剤としての用途です。
過酸化ナトリウムは、気体中の二酸化炭素(CO2)と接触すると、自発的に炭酸ナトリウムへと変化しながら純粋な酸素を放出します。
2Na2O2 + 2CO2 → 2Na2CO3 + O2↑
この性質は、外界と空気を遮断された閉鎖環境において「奇跡の生命維持メカニズム」として機能します。人間が呼吸によって酸素を消費し、二酸化炭素を排出するサイクルに対して、過酸化ナトリウムは「呼気の有毒な二酸化炭素を捕集し、同時に吸入に必要な酸素をその場で供給する」という二重の役割を、電力を消費する動力装置なしに化学反応だけで完結させます。
そのため、潜水艦の非常用空気再生缶、宇宙船や宇宙服の生命維持パック、鉱山での遭難救助用自給式呼吸器(レスキューギア)の酸素発生カートリッジとして、20世紀半ばから現在に至るまで極めて重要な役割を担ってきました。危険な酸化力を持つ諸刃の剣だからこそ、極限環境では人間の命を救う防壁となってきた歴史があります。