現在の開かれた柔道部を語るうえで避けて通れないのが、2013年に日本中を揺るがした天理大学柔道部 過去の不祥事と真相です。当時、男子柔道部の練習拠点であった寮内において、上級生が1年生部員に対して暴行を加え、鼓膜を破裂させるなどの重傷を負わせる事態が発覚しました。
全日本柔道連盟からの登録停止処分や公式戦への出場辞退、大学首脳陣や首脳陣・部長の辞任へと発展したこの騒動は、半世紀以上にわたって築き上げた名門の信用を一瞬で地に堕としました。「伝統」という美名のもとに温存されていた閉鎖的な上下関係、理不尽な雑務の押し付け、そして暴力の連鎖。柔道界全体が暴力根絶へと舵を切る激動期において、天理の事件はその象徴として激しい社会的バッシングを浴びました。
どん底に沈んだチームの再建を託されたのが、OBであり世界選手権100キロ級王者の穴井隆将氏でした。監督就任にあたり、穴井氏が断行したのは単なる練習メニューの変更ではなく、「理不尽の完全解体」でした。寮内の当番制度を大幅に見直し、下級生への雑用負担を撤廃。暴力や暴言に対しては一発で退部処分となるゼロトレランス(不寛容)方式を導入しました。
「やらされる柔道」から「自ら強さを追求する柔道」へのコペルニクス的転回。当初は戸惑いや反発もありましたが、穴井監督は逃げることなく対話を重ね、学生たちのマインドを根本から作り変えました。この血のにじむような自浄努力こそが、天理大学柔道部 復活の経緯の核であり、2016年の全日本学生柔道優勝大会での王座奪還へと結実したのです。