完璧に茹で上がったワタリガニを前にして、どこから手をつければいいのか戸惑う人は少なくありません。正しい解体手順を踏まなければ、可食部を無駄にしてしまうばかりか、決して口にしてはならない部位を誤食してしまう危険もあります。安全かつ無駄のないプロの解体手順を頭に入れておきましょう。
第一のステップは「ふんどし(腹甲)の除去」です。茹で上がって粗熱が取れたカニを裏返し、お腹の中央にある三角形または円形のフタに指をかけて持ち上げ、根元からパキッと折り取ります。茹でる前は絶対に外してはならないフンドシですが、火が通った後は真っ先に取り外します。
第二のステップは「甲羅の外し(甲羅割り)」です。フンドシを外した跡に親指を掛け、もう片方の手で足の付け根の胴体をしっかり持ち、引き剥がすようにゆっくりと開きます。すると、甲羅の内側に美しいオレンジ色の内子と緑褐色のカニ味噌が姿を現します。甲羅の先端(角の奥)にも味噌が詰まっているため、小さなスプーン等で丁寧に掻き出してください。
第三のステップが、最も警戒すべき「エラ(ガガ・砂袋)の完全除去」です。胴体の左右両脇に、白〜灰色の羽毛のようなヒダがびっしりと並んでいます。これはカニの呼吸器官であるエラ(通称:ガガ)です。エラは海中の砂や老廃物をろ過するフィルターの役割を果たしており、雑菌が多く、食感も悪く、消化にも悪いため絶対に食べてはいけません。手で簡単にちぎり取れますので、左右両側のヒダをすべて綺麗に取り除き、廃棄してください。口の周辺にある硬い砂袋も合わせて取り外します。
エラを取り除いて綺麗になった胴体を、包丁やキッチンバサミで縦半分に割り、さらに足2本ずつ程度を目安にブロック状に切り分ければ解体完了です。ワタリガニの胴体には複雑な軟骨の仕切り(カニビル)がありますが、繊維に沿って指で割くことで、驚くほど簡単にポロポロと甘い身が取り出せます。
【プロの結論】「茹で」を選ぶべき人・「蒸し」を選ぶべき人の判断基準
最後に、あなたがどちらの調理法を選ぶべきか、判断の分かれ道を明確に提示します。自身のキッチン環境と食の好みに照らし合わせて決定してください。
【「茹で」をおすすめする人】
- 大型の寸胴鍋や深い両手鍋を持っている人:カニ全体が完全に沈む湯量を確保できる環境があれば、茹で調理が最もムラなくスピーディーに熱を通せます。
- カニ酢や調味料を使わず、そのまま完成された味で食べたい人:3.5%の海水濃度で茹でることで、身の芯まで絶妙な塩分が行き渡り、プロの塩加減を再現できます。
- 調理後の「濃厚な茹で汁」を余さず活用したい人:カニの殻と身から出た出汁は、翌朝の極上カニ雑炊や味噌汁、パスタソースのベースとして至高の副産物になります。
【「蒸し」をおすすめする人(または茹でを避けるべき人)】
- カニが沈むほど大きな鍋がなく、フライパンや浅鍋しかない人:お湯からカニが飛び出す環境で茹でると生煮えや味噌の流出が必至です。深めのフライパンに蒸し皿を敷いて蓋をした方が失敗しません。
- 塩分を自分で細かく調整したい、またはポン酢・三杯酢で食べたい人:蒸気での加熱は塩分が入らないため、素材本来の純粋な甘みをダイレクトに抽出できます。
- 冷凍ワタリガニを使用する人:一度冷凍されたカニは細胞膜が壊れており、熱湯で直接ボイルすると肉汁が湯に抜けやすいため、解凍後に優しく蒸し上げる方が身のパサつきを抑えられます。