メガホンを取った江口カン監督の現場は、一切の妥協を許さない緊張感に満ちていた。土俵の砂の質感から力士がぶつかり合う鈍い衝撃音まで、徹底的にリアリティが追求された。撮影現場では、予定されていたカット割りを変更し、俳優たちが極限状態で出す生の表情や息遣いを逃さずカメラに収める手法が取られたという。
未公開のエピソードとして語られるのが、主演・一ノ瀬とライバル力士役の俳優たちが本気で土俵上でぶつかり合った際のエピソードだ。テイクを何度も重ねる中で体力の限界を迎えながらも、お互いの意地がぶつかり合い、カットがかかった瞬間に倒れ込んで抱き合ったという。カメラが回っていない瞬間すらも彼らは「力士」であり続け、そのピリピリとした空気が作品全体のグルーヴを生み出していた。