あの日、右半身の自由を完全に奪われた瞬間から、ミスターの果てしない孤独な戦いが始まった。脳梗塞の後遺症として現れた右半身麻痺。特に繊細な神経と筋力を要求される右腕の麻痺は極めて重く、当初は指先ひとつ動かすことすら絶望的とされていた。多くの人が現場復帰は不可能だと囁くなか、長嶋茂雄という男は誰にも見せない病室の奥で、常軌を逸したトレーニングに身を投じていた。
「もう一度、自分の足でグラウンドに立ち、右手でバットを握る」。その執念だけが彼を突き動かした。激痛を伴う関節の可動域訓練、麻痺した指に刺激を与え続ける地道な反復作業。担当医や理学療法士が過密なメニューを制止しようとしても、本人は首を横に振り、汗にまみれてトレーニング器具を握り続けた。右手に入らないはずの力を絞り出そうと歯を食いしばる姿は、まさに現役時代の猛練習そのものだったという。
現在の右手は、完全に以前のような自由を取り戻しているわけではない。だが、関係者によれば、日常的なサポートを受けつつも、自らの意志で腕をコントロールし、時にはペンを握ってサインに応じようとするまでに回復を見せている。あのポケットに収められた右手は、決して隠すべき不自由さではなく、運命と正面から格闘し続けてきた勲章にほかならない。